R氏の本棚

日々の読書記録

ケアする人とケアされる人のあいだーケアとは何か  看護・介護で大事なこと/村上靖彦

職業的ケアラーからピアまで、また医療福祉現場から地域まで、様々な現場における実践例をひきつつ、「ケアとは何なのか」をあらためて問う本である。 新書というコンパクトな書籍ではあるが、ケアラーとケアを受ける人との間の(しばしば困難な条件下での)…

これはディストピアなのか?ー献灯使/多和田葉子

表題作の他に4篇の短編(そのうち1編は戯曲)が収められている。いずれも「2011年の震災後の日本」を共通のモチーフとして、しかし現実に起きたこと起きていることとはまったく異なる世界を描いた作品群、と言えばいいだろうか。 表題作は、大きな災厄(大…

「ケア」の概念を拡張するーケアの倫理とエンパワメント/小川公代

このところ畑違いの本を読むことが続いていて、本書もそのひとつではある。おそらく読みとれていないことがらも多いとは思うが、受け取ることが多かったとも思っているので少し感想を書き留めておく。 「ケア」というと家庭内で家族が行う育児や介護、あるい…

落とし物を拾うのは誰かー妊娠・出産をめぐるスピリチュアリティ/橋迫瑞穂

仕事で隣接する分野でもあり、実際に影響を受けている人と接したこともあるので、「妊娠・出産」をめぐるスピリチュアル市場の動向は気になっていた。本書は新書という手軽な体裁でありながら、気になっていたことがらはほぼカバーされ、またよく整理されて…

アウェイの本を読むということー中動態の世界/國分功一郎

周囲に言及する人が複数いたので読んでみたが、なかなかのアウェイ感だった。 本を読むのにホームもアウェイもないだろう、と言いたいところだが、やはり馴染みのない分野というのはあって、本書に書かれていることがらを理解するための基礎知識が、決定的に…

設定から結末まで意表をつかれっぱなしー黒牢城/米澤穂信

舞台は織田勢に包囲された有岡城、主人公かつ探偵役は戦国武将荒木村重、彼とタッグを組むもうひとりの探偵は地下牢に閉じ込められた黒田官兵衛。すごい設定だ。 包囲下の城は密室に近いが、出入りの方法がなくはない。戦国時代だから殺人は日常茶飯事だが、…

日々をやり過ごす知恵ーぶたやまかあさんのやり過ごしごはん/やまもとしま

著者(Twitter上の知人でもあるのでそこででおなじみの「ぶたやまさん」と呼ぶ)のことを私はひそかに「Twitterの質問王」と称している。Twitterに様々な分野の専門家が生息していることは周知であるが、ニュース等で話題になった(主に自然科学分野に関わる…

辻真先、健在なりーたかが殺人じゃないか/辻真先

物語の舞台は、街にも人にも戦争の跡が色濃く残る昭和24(1949)年の名古屋(と一部は豊橋近郊の温泉地)である。空襲で破壊されたままの建物が残り、100m道路はまだ存在しない。1951年の講和条約前であり、街には進駐軍が闊歩している。 その街で、降って湧…

あなたはここに何を読むかーかがみの孤城/辻村深月

ネタバレあります! いじめがきっかけで不登校になった中学生、こころは、ある日光り始めた自室の鏡を通って異世界にたどりつく。そこには奇妙な城とオオカミの仮面の少女、そして同年代の少年少女たちがいた… ナルニア国物語を彷彿とさせるような(実際物語…

問い続けられている問いーWHAT IS LIFE? 生命とは何か/ポール・ナース著/竹内薫訳

本書で何が書かれているか、それは端的にまえがきに記されている。 生命って、なんなんだろう? 私は人生を通じてこの問題を考えてきたが、 満足のいく答えは簡単には見つからない。意外かもしれないが、生命についての標準的な定義などないのだ。それでも、…

子どもにかかわる人におすすめーゲーム・ネットの世界から離れられない子どもたち/吉川徹

著者は児童精神科医。発達障害や精神的な問題を抱える子どもたちの臨床の場から、子どもとゲーム・ネットとのかかわり、そこへのおとなのかかわりについて論じている。私自身、小児科医として、というよりむしろ、ゲーム&ウオッチの時代から一貫してゲーム…

街が、息づいているー大阪/岸政彦・柴崎友香

大学に入るために大阪にやってきてそこで社会学者となり仕事をし暮らし続けている岸。大阪で生まれ育ち学校を出て作家になり大阪を出た柴崎。それぞれがそれぞれの「大阪」について交互に書き継いできたエッセイをまとめた本である(もとは雑誌『文藝』2019~…

今現在を見ているようーエピデミック/川端裕人

(ネタバレあります) 房総半島南部の町(おそらく館山がモデル)で、謎の感染症が拡がる。町なかで突然倒れた男。流行期を過ぎているのに次々と小児科医院を訪れるインフルエンザ様の症状の子どもたち。季節性インフルエンザ抗原陽性の患者もいるが、インフ…

このブログについて

読書メーターに読んだ本の感想などをあげているのですが、字数制限におさまらないことも多いので、長めの感想の置き場所としてブログを使ってみることにしました。ゆるゆる更新していくことになると思います。