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日々の読書記録

設定から結末まで意表をつかれっぱなしー黒牢城/米澤穂信

舞台は織田勢に包囲された有岡城、主人公かつ探偵役は戦国武将荒木村重、彼とタッグを組むもうひとりの探偵は地下牢に閉じ込められた黒田官兵衛。すごい設定だ。

包囲下の城は密室に近いが、出入りの方法がなくはない。戦国時代だから殺人は日常茶飯事だが、どう考えてもその意味(動機)もわからないし、状況も密室内密室みたいなかたちで方法がわからない、となればやはり不可解なものとなる。そして謎を謎のままにほうっておけば城内の結束が危うくなる。

村重自身も謎を謎のままにしておけるたちではない人間として造形されていて、城主自身が探偵となる。それも無能な探偵ではなく、むしろ普通以上の捜査能力推理力を発揮するのだが、それでも行き詰まる時、地下の官兵衛の知恵を借りにいく。官兵衛は牢に閉じ込められたままで村重の捜査結果を聞くだけだから、これは「安楽椅子探偵」(全然安楽じゃないけど)ものでもある。

(以下若干のネタバレを含みます!)

 

官兵衛の回答もまたストレートではなく、あくまで解決の道筋を暗示するだけであり、その意味を解くことはまた村重のしごとになる。官兵衛の能力を常にライバル的に意識している村重、何を考えているのか底が知れない官兵衛。この関係と距離感が絶妙だ。

城内には信長に反旗を翻した一向衆、キリシタン地侍たちという異質なものたちがいて、それぞれに拠って立つ価値観が異なる。同じ著者の『折れた竜骨』では関係者の宗教的価値観の違いが謎解きのヒントのひとつになったが、ここではむしろことが謎を複雑化させている。そして、「信仰心」という、おそらく村重自身がもっとも興味がなかったことがらが、(村重から見た)「犯人の意外性」につながっているとも言えそうに思う。

村重がなぜ官兵衛を殺さなかったのか、も物語を通底する「謎」であり、彼の問いかけに答えながら官兵衛が問い続けたのはそのことであるようにも思う。そして最終局面で明らかになる、官兵衛のたくらみ(なぜ官兵衛は問われて答え続けたのか、のほんとうの答え)には唸らされる。

大河ドラマ軍師官兵衛』の記憶のせいで荒木村重田中哲司黒田官兵衛岡田准一で脳内再生されるのにはちょっと困った。

角川書店/2021年